<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第15章 瞬間 ― 秀吉&姫 ―
「…ほんとですか!でも、お忙しいのですよね、信長様の右腕だって伺ってますし」
「だから、毎日は無理だと思うが…」
俺はふところにしまっていた、一冊の薄い本を出し、舞に渡す。
「さっき見付けた書庫にある一番易しい本だ。とりあえず意味や文字がわからなくても、毎日眺めて、同じように字を書いてみなさい」
「…練習すれば良いんですね?」
「ああ、毎日少しずつやっていけば、読めるようになると思うが」
「はい、秀吉さん、そうします」
「俺の時間がある時は教えてやるからな」
「はい、お願いします」
ぺこりと頭を下げる舞。
「じゃあ、お疲れ。早く休めよ?」
「ありがとうございました」
声を掛けると、舞が花の咲くような笑顔を見せた。
俺の鼓動が大きく跳ねる。
時が止まったように。
そして、俺の、舞への気持ちが、少し変わった瞬間だった。
舞は信長様の命を狙う、怪しい者ではないかもしれないな。
それなら次から俺への敬語は外させよう。
<終>