<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第144章 深き愛 ― 姫&三成 ―
「源氏物語」ってあの「源氏物語」だよね?
これはどこの巻なのか聞いてみると、三成くんから「花散里の巻です」と答えがかえってきた。
花散里っておねえさんが光源氏のおとうさんの奥さんで、美人ではないけれど性格が穏やかで優しくて温かくて、光源氏はそれが気に入って愛人にしたんだよね?
「ええ、そうですね」
それにしても三成くんが「源氏物語」を読むなんて、ねぇ、と私は驚いて言うと、三成くんは私の手を突然握ってきた。
「舞様の心を知りたくて読んだのですよ」
「え?なんで?」
「おんなのかたの心を知るには、女人の書かれた話しを読むのが手っ取り早いと思いまして。でもやっぱりわかりませんね」
驚く私に、三成くんの紫色の目が真剣味を帯びて私をじっと見つめ、私は顔が赤くなるのを感じる。
深い深い、海溝より深く沈んだところで育つ私の愛が、少しずつ浮上してくるのを感じる。
それは目の前にいる人へ、応えるための愛なのだと理解するのは、ほんの少し後の事。
今は見つめられ、何故だか心臓が早鐘のようになるのを静めるのに精いっぱい。
「舞様、私の心を知ってもらえますか?」
三成くんの心を知って、私はどう変わっていくのかしら?
私の目に紫色だけが映り込み、他の色が見えなくなる。
深き愛が海底から、急速に私の心に舞い込んできた。
<終>