<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第141章 言えなかった想い ― 姫&顕如 ―
あの人は私の思い出の中。
「私の事は忘れなさい。私はお嬢さんの住む世界には相応しくない」
「どうしてですか…顕如さん…」
「私は鬼だ。自分だけでなく私の為に死んでいった同胞の想いも全て背負い、私は生きて鬼となって、織田信長を殺さなくてはならないのだ」
顕如さんの苦しそうな横顔が、私を離すのも愛のひとつだと教えている。
「信長様を殺さず、亡くなった同胞のかたを弔いながら生きていくのは駄目ですか…?
出来るなら、私も顕如さんの側に寄り沿って、一緒に弔っていきます」
「お嬢さん…いや、舞…」
顕如さんの声が闇を飲みこみ、一瞬表情が和らいだ気がする。
けれど、顕如さんの口から放たれたのは。
「堪忍な…私は今更生き方を変える事が出来ぬのだ」
「顕如さん!」
顕如さんの闇色の瞳が苦し気に細められ、私は唇を噛む。
「どうしても、変えられないのですか?」
「ああ…あまりに多くの同胞が、私のために死んでいった。私が今、立っているところは、私の為に死んだ者達の死骸で埋め尽くされているのだ。
その者達の死を無駄にせず、私は復讐に生きなければならぬ身なのだ。
舞、おまえを安土へ送らせよう。おまえは光の中で生きるおなごだ。
私の事は忘れて、おまえを光射すところへ導くおとこと生きるが良い」