第125章 出発　― 姫＆幸村 ―

信玄様を置いてどうして、と思われるかもしれない。

でも幸村のお父様の具合が良くなくて、幸村が私を連れて故郷へ戻りたい、と信玄様にお願いして叶えてもらった事であり、勿論落ち着けばまた幸村は信玄様の許へ戻る事になっている。

私はたぶん、幸村のお父様のお世話をしながら、故郷で幸村がいつか戻るのを待つ生活になると思う。

不安と言えば不安だけれど、幸村が話してくれた、故郷の自然の美しさとそこに住むひとびとのおおらかさに惹かれ、その地に行くのを楽しみにしてもいるの。

「さ、行くか」

幸村がひらりと馬にまたがり、私を引っ張り上げて前に乗せてくれた。

「それじゃ、信玄様、落ち着いたら、戻りますのでしばらく留守にします」

「ああ、行っておいで。天女を置いていってくれると本当は嬉しいんだけどな」

信玄様の言葉に、露骨に嫌な顔をする幸村。

その様子に信玄様は大きく声をあげて笑った。

「幸は本当にわかりやすいな、いつになったら俺の戯言を戯言と流せるんだか」

「あんたの言う事はいつでも本気が込められているから、戯言と捕らえられないんです」

幸村も反論するけれど、信玄様のほうが一枚も二枚も上手だな。

「佐助くん、信玄様に甘いもの、たくさん口にされないように気を付けてね」

幸村が忘れているのかな、と大切な一言を佐助くんにお願いした。

「出来るかどうかはわからないけれど、善処はしよう」