<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第12章 兄の想い ― 光秀&信長 ―
何事か、と俺は膝をすすめ、御館様の近くへいざる。
「市の相手を決めた。浅井の嫡男、浅井長政だ」
「ほう…浅井長政でございますか」
意外だ。市様の相手ならもっと大きなちからを持つ武将へ嫁ぐものだと思っていた。
しかし、きっと、この婚儀は、朝倉を封じ込めるためのものなのだろう。
「あいつにはもう伝えた。俺の為に働け、浅井の後ろに居る朝倉の動きを掴め、と」
「市様はなんと?」
「任せろ、と笑いおった。あいつも成長したものだ。反対するだけかと思うておったが、理由を先に聞いてきて、納得しおった」
「お輿入れがお決まりになり、浅井との交流も活発になりますな」
「代わりに、ますます朝倉が怪しい動きをしそうだ」
得心した。御館様は兄の立場から、市様を心配なさっているのか。
「朝倉と浅井の周辺に、人を配置せねばなりませぬな」
「頼んだぞ、光秀」
強く赤い光の瞳がこちらを見つめる。
「御意」
御館様の前を辞して、俺の手の者で特に優秀な者を頭の中で選び出す。
市様が朝倉を掴むために、浅井に嫁がれるなら、俺達も全力で市様をお助けしなくては。
しかし、美しい市様にもう会えぬのも残念というところだが、な。
<終>