<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第115章 表裏一体 ― 姫&三成 ―
三成くんはあくまで表情は穏やかだ。
上衣の衿を掴んだままの私の指をゆっくりと外し、表情を変えないまま私に言う。
「私が舞様に言う事は何もありません。ああ、敢えて言うなら、どうぞ青葉城で政宗様とお幸せに、という事ですね」
「…どうして、そんな事が言えるの?私は三成くんを裏切ったのに…」
私は行き場のなくなった両手を自分の膝の上に置いて、ぶるぶると震えた。
「…怒るのは簡単です。でも舞様の気持ちを、それで変える事は出来ません。
舞様は政宗様を最終的に選ばれた。それをどうこう言える私ではありません。
さ、いつまでもここに居ないで、政宗様のところへ戻ってください。
きっと政宗様もお待ちになっていますよ」
「三成くん…」
「舞様は表裏一体ですね。表は誰にでも優しく美しい貴女、でも裏は妖艶な色っぽさを持ち、それを知るのはただ一人。両方揃って、本当の舞様なのですね」
三成くんは立ち上がると、襖を開けて、私に帰るよう促す。
「もう二度と会わないでしょう…舞様。どうぞお元気で、お幸せに」
ああ、この高潔な人を、私の身勝手で傷つけてしまったんだ。
帰る前に、もう一度、座ったまま頭を下げた。
「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」
三成くんは何も言わなかった。
私は重たくなった気持ちを引きずりながら政宗の許へ戻り、三成くんとの事を全て話し、心の中で何度も何度も、『ごめんなさい』と謝るだけだった。
<終>