<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第106章 気付かぬ片想い ― 三成&姫 ―
「しかし、口付けされていたのなら、光秀様もお好きだからこそ、ではないでしょうか?」
私は驚きながら、では光秀様は一体どういうつもりで、舞様に口付けされたのか、と思いました。
「それなら良いんだけど、ね…」
舞様は切な気な表情で俯かれ、二人で秀吉様の御殿まで無言のまま向かいました。
私は舞様の表情が忘れられず、思い切って言いました。
「私なら、舞様にそのようなお顔はさせません…っ」
その声ではっと私の顔を見られる舞様に、私も舞様を見て続けました。
「私を見てくださいませんか?私なら、そのようなお顔をさせる事は致しません」
「…ありがとう、でも、私は光秀さんを追い掛けていたいんだ。光秀さんが私を好きでないなら、いつか、絶対、こちらを向かせてみせる。私を夢中にさせてみせるよ」
「…舞様…わかりました。何かありましたら、私にもおっしゃってくださいね」
私は舞様の清しい横顔に余計な事は言ってはいけないと気付き、舞様の光秀様に対する気持ちは本物であるならば、それを叶えて欲しいと思いました。
それと同時に、私の心の奥底で、何か残念なような切ないような、そんな気持ちがふやふやと沸き起こり、この気持ちはどうすれば良いのか、と自分の心が軋むようになりました。
秀吉様の御殿に着き、舞様は落ち着いた様子で秀吉様のお部屋へ向かわれます。
私は複雑で、まだ整理出来ない不思議な気持ちを抱えたまま、舞様の後ろを歩きながら秀吉様のところへ参ります。
この、舞様に対する気持ちが『恋』と気付くのは、たぶん…私には無いでしょう。
いえ、気付いても無理やり蓋をして、気付かない振りをするのです。
<終>