<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第8章 兄妹 ― 信長&市 ―
「まぁ、確かにそうかもしれぬな」
ほう。浅井との婚儀に、ただ、ただ、拒否をしてくるかと思ったが、拒否する前にまず理由を知ろうとする心構えはたいした成長だ。
「貴様の言う通り、浅井ではなく、もっと格上の武家との縁組を考えた事は何度も有る」
俺の言葉に市は首を片側に少し傾ける。
さらさらと黒い髪が傾けた側に流れおち、その黒髪が陰影を作り、市の美貌が際立つ。
「浅井は北の朝倉に汲みしてきた家だ。朝倉の最近の動きがはっきりせぬ以上、見張りが必要だが、送りこんだ何人もが戻って来ぬ」
市がこくりと息を飲む。
朝倉の不気味な動き。
一体何をしようとしているのか。
「市、貴様は俺の為に働け。浅井へ嫁ぎ、朝倉の動きをよくよく留意せよ」
一瞬の間を置いて、市の瞳が大きく見開かれ、俺の言を理解したように頷いた。
「…そういう事なのですね、おにいさま。それなら仕方ありませんわね。浅井へ参り、織田とおにいさまの為に働いてきますわ」
「理解したか」
「おにいさま、市にお任せくださりませ」
俺とよく似た光を持つ瞳を、強く輝かせ、市は部屋を出ていった。
-任せるぞ、市。
<終>