<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第8章 兄妹 ― 信長&市 ―
「おにいさま!」
ああ、うるさいのがやってきた。
俺は届いた書簡を急いで広げ、いかにも政務に勤しんでいるように見せる。
ぱたぱたと廊下を早足で歩いてくる音が聞こえ、聞こえたと思ったら、すらりと襖を開いて、妹の市がすっきりとした姿態を見せて立っていた。
妹にしておくには勿体ないほどの美貌の持ち主だが、性格はかなりおてんばで、俺も相手をしたくないくらい、ずけずけ質問に突っ込んでくる、じゃじゃ馬だ。
「おにいさま!どういう事なんですの!」
たぶんあの事だろうと、怒っている市に、わざと気付かぬ振りをして聞く。
「どういう事とはどういう事か?」
めんどくさいが、相手をしないと納得しないようだ。
市は、むっとしながら俺の部屋に入り、後ろ手で襖を閉め、俺の近くに寄って来、すとんと俺の側に座ると、早速尋ねてきた。
「何故、私の嫁ぎ先が浅井(あざい)なんですの!」
俺は考える時を作るため、ゆっくりと顔を市のほうへ向けて問う。
「浅井では不満か?」
俺の問いに市は、美しい眉をひそめて、顔を左右に振る。
「不満というより、何故、浅井なのかと思ったのですわ。今のおにいさまの状況を考えると、浅井より…こう申しては何ですが、もっと格が上の武家との婚儀をお考えになると…そう思ったのですわ」