<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第79章 密やかな距離 ― 家康&姫 ―
舞には素直になれれば、と何度も思った、けれど…
ふと暗くなったので顔を上げると、目の前の少し開いた襖の向こう側に、舞がちょこんと座ってこっちを見ていた。
「な、何してるの…」
俺は正直動揺し、でもそれを見せないようにし、話し掛けた。
「わさびにごはんをあげて、ふと見たら、家康さんのお部屋の襖が開いてたのでどうしたのかな、と思って見に来ました。どこか具合でも悪いですか?」
舞が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「ああ、何ともない、俺なら大丈夫だから。わさびの餌やりに戻りなよ」
「家康さんも一緒にわさびにごはんをあげませんか?」
舞の提案に、俺は舞の顔をまじまじと見てしまった。
「わさびも家康さんからごはんをもらうと嬉しいみたいですよ?」
舞はわさびと会話が出来るのか、と俺は一瞬思ってしまった。
仕方ないから俺も一緒に庭へ出て、わさびに餌を与えた。
「ほら、やっぱりわさび、嬉しそうですね」
俺にはそうは見えないけど、あんたが嬉しそうにしている姿なら良いね。
そうして、少しずつ、俺とあんたの距離が縮まってくれれば、と思うのはおかしい?
俺は知らないうちに、あんたの笑顔に惹かれて、天邪鬼の姿を潜めたくなっているのかもしれない。
舞、俺達の距離を縮められたら、俺の本当の姿を見せても良いかもしれないな。
<終>