<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第74章 桃が好き ― 蘭丸&姫 ―
声を掛けると襖が開き、舞さんがかごを持って部屋へ入ってきた。
「蘭丸くん、これ」
舞さんが差し出したかごの中には、みずみずしい桃。
俺はそれを見て、舞さんを見て、先日舞さんと話した内容を思い出す。
俺が好きなものの事を舞さんに聞かれたんだっけ。
『俺は桃が大好き。甘くてみずみずしくて最高に美味しいよね。桃が好きな理由はそれだけじゃないんだけど…え?他の理由?どうしようかな、今は内緒。
舞さんが俺に個人的に会いに来てくれたら教えてあげる』
もしかしたら、これを覚えていたの?
舞さんに尋ねると、舞さんは赤くなりながらフンと横を向き、言う。
「そろそろ桃が出る時季でしょ?蘭丸くんが好きだっていうから、たまたま見付けたのを買ったの。
それに個人的に会いに来たら、桃が好きな理由を教えてくれるって言ったでしょ。
その理由も気になっているから、教えてもらいに来たんだよ」
素直じゃないな、舞さん。そんなところも可愛いけどね。
俺はかごを受け取ると、桃を一つ取って懐紙でくるみ、皮をむきながら言う。
「ありがとう、舞さん。俺が桃が好きな事を覚えていてくれたんだね」
そして皮をむいた桃をそっと舞の唇へ、食べなよ、というつもりで押し付ける。
少し減った果肉部分を今度は俺がかじる。
甘くてみずみずしい桃が好きなのは、舞さんの頬のようにつややかで唇のように柔らかくて、舞さんを食べているような気分になれるから、だよ。
そんな事を言ったら、舞さんはどんな顔をするかな。
言ってしまおうか、でも俺が理性を保てるかな。
俺が桃を好きな理由。
今日はまだ教えてないから、楽しみにしててね。
<終>