<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第6章 分かれ道 ― 姫&顕如 ―
「何故、泣くのだ?」
「顕如様がご自分の命を大切になさらないからです…」
「…そうか、舞、かんにんな」
涙のたまった目のふちをそっとぬぐい、顕如は静かな眼差しで舞を見つめた。
「もう舞はここへ来てはならぬ。ここはおじょうさんの来るところではない」
-ええ、もう、きっと貴方に会う事は出来ないでしょう。
「顕如様、どうぞ憎しみを乗り越えて、門徒のかたがたを導いてください。貴方の本当の責務を忘れないでください」
お互いに二度と会えないからこそ、苦しい想いを隠し、何も言わずに分かれ道を行く。
「顕如様、どうぞ、生きてください」
我慢していた涙が一筋流れる。
その涙を、また顕如の大きな指がそっと拭い、舞はその手に自分の手を重ねる。
「顕如様、お願い、自分を大切にしてください…」
二人の目線が絡み、顕如は思わず舞の手を自分の顔まで持ち上げ、手の甲に自分の唇を押し当てる。
唇の触れたところがほんのり熱を持つ。
舞は顕如から離れ、踵を返し、牢から出ていき、その姿を顕如は見送る。
舞は顕如が見えなくなると、手の甲の顕如の触れたところに自分の唇を当てる。
交差する想いを振り捨てる二人に、冷たい空気が牢を包み、顕如を孤独へ連れて行く。
<終>