<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第59章 期待 ― 信長&市 ―
妹の市が浅井(あざい)家に嫁ぐ事が決まり、市の身辺が急に慌ただしくなった。
毎日のように京からの行商人が城にやってきて、いろいろな品を置いていく。
そう、全てが花嫁の支度の為だ。
俺が兄である以上、下手なものを浅井に見せる訳には参らぬ。
だから秀吉に申し付け、城下から京のものを扱う者だけを城に呼び、支度としてさまざまな道具や反物を置いていかせている。
「ちょっと、おにいさま!」
市のやつ、また何の用だ、俺の政務の邪魔をするのが好きらしい。
ぱしんと襖を開け、市の美貌が顔を覗かせると、ほう、俺のすぐ横で政務の手伝いをしている秀吉がわずかに顔を赤らめた。
「…何用だ?」
「もう、おにいさま、反物屋が毎日来ますけれど、もう反物は要りませんよ!」
「…どういう事だ?」
何で多いのかさっぱりわからぬ、と、俺が眉をしかめると、秀吉があ、と声を上げた。
「なんだ、秀吉、何の事か?」
「あ、の、もしかすると、お申し付けで城下の、京の反物を扱う行商人たちに、反物を置いていくように伝えたのですが、際限なく来ている可能性があります…」
「それよ!反物はもう要らないわ。香木ならいくつあっても良いのに、そういうものは置いて行かないんですもの、嫌になっちゃうわ」