<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第52章 恋を縫う ― 姫&信長 ―
行灯のほのかな光の中、私は針を動かす。
まもなく戦に出るあのかたの為、私は戦勝の願いをこめて縫う。
本当は戦に行って欲しくないし、して欲しくない。
でも、この時代である限り、戦いからは逃れられない。
「信長様…」
私はあのかたの名前をつぶやき、縫っていたお守りにそっと口付けした。
「いってらっしゃい、無事にお戻りください」
町の人達も見送る中、私も信長様に声を掛ける。
「ああ、貴様も息災でいろ」
信長様は馬に乗ったまま私を見下し、いつもの不敵な笑みを浮かべ、私を見た。
私のあのお守りは、信長様に直接渡す事なく、陣羽織の裾に小さく縫い付けておいた。
粛々と進んでいく一軍を見送り、町の人達も戻っていく。
私も自室に戻り、行く前に預かった信長様の着物にそっと頬をあてる。
信長様のいつもの香の匂いがし、私は思わず泣きそうになる。
『だめ、だめ、泣いたら。泣いたらまるで悪い事が起きちゃう…』
たった半日いらっしゃらないだけで、不安で心配でたまらなくなる。