<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第2章 猫さん ― 顕如&三成 ―
石田三成はその形の良い唇の両端をあげて、笑顔を私に見せる。
「おわかりなら話しは早いです。
信長様は新しい世を作り、国力を上げ、異国と対等に付き合えるだけのちからを持とうとなさっています。
その時、貴方はここから出て、新しいひのもとの国をご覧いただく事になりましょう。
そして貴方自身も、新しい貴方に生まれ変わるのです」
新しい私だと?そんなのは私には不要だ。
私は復讐だけに生きているようなものだ。
生まれ変わるつもりなぞ、ことさら無い。
『猫さん』はそんな私にもすり寄る。
愛おしいいのち。
私は自分の同胞を守れなかった。
死んでいく同胞を守れなかった。
私の彼らへの償いは信長を殺すこと。
「話しは終わりだ。猫を連れて去ね(いね)、石田三成」
私が既に会話する気が無いと知り、石田三成は『猫さん』を抱いて、私の頭を下げ、去る。
「にゃおう」
『猫さん』だけは、まるで「また来るよ」と言っているように鳴いた。
おまえは無関係だ、いつでも来ても良いがな。
私は冷たい牢の床に座り、死んでいった同胞の為に静かに文言を唱え始めた。
<終>