• テキストサイズ

【イケメン戦国】戦国舞花録

第24章 『融氷』




ぴくり、と。
俺の衿元の奥へ忍び込もうとしていた、細い指の動きが止まる。
そしてそれとは反対に。
こちらを鋭く見据えていた漆黒の瞳は、微かに揺れていた。・・・・・


「っ、調子良いこと言って……」

「本心で言ってる」

「………」


凍てつく氷のように冷淡で好戦的で。
己の思うがまま突き進む彼女ーーー
けれど、
どう言い表せばいいのか………
仄暗い何かを孕んでいる気がして、
痛ましく、言い知れぬ気持ちになるんだ。
何故だか、とても。


「俺だけじゃない、百合だってそうだ。
だからもうこんな事はやめろ。前にも話しただろ?自分を大切にしろってーーー
…………うっ!!」


どうか分かって欲しい、その一心で。
目線逸らさず真っ直ぐに見つめ、
毅然たる態度で諭していた俺の唇へ
なんの前触れもなく、生温かいぬくもりが吸い付いてきた。
突然の口付けと、視界を遮る毛むくじゃらの姿形ーーー


「ウ〜〜リ〜〜………
こらっ!離れろっっ!」


構って貰いたが故の行動だろうか。
口付けという手段で訴えかけてきたウリを急いで引き離し、慌てて飛び起きる。


「お前なぁ、駄目だろっ!?人が真剣に話してる最中に……」


動物相手に空気を読め、と理解させるなど我ながら無茶なことを言ってるなぁと自覚しつつ。
なんだか滑稽で間抜けな事態になってしまった恥ずかしさで顔が熱くなってきた。
当のウリはというと、キャッキャと嬉しそうに手を叩いている。
………まったく、なんて間の悪い奴なんだ。

すると、次の瞬間。
堰を切ったように高らかな笑い声が部屋中に響き渡った。


「あっはははは!!
あ〜んな真面目に語ってたのにねぇ。
なにその残念なオチ。猿に唇奪われるとか………ぷはっ」

「わ…笑うなっ!
説教はまだ終わってないからなっ!」


笑いが収まらないのか、
蓮は畳にうずくまり腹を抱え、肩を震わせていて。
そんな一人と一匹に茶化される羽目になった俺は、恥を誤魔化す為に怒る素振りをしながらも今まで張り詰めていたものが解けていくのを感じていた。



/ 493ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp