第22章 『衝動』
「もし佐助君が桜子を助けてくれてるなら、向こうから何かしら連絡が来ると思うの」
「………もしも、の話でしょ?」
「うん………でも今はそう信じるしか他に無くて」
ーーーそう、だよな。
知らない時代、土地に放り込まれた私には何も出来ないし。
不本意だが今は織田の力に頼り捜索を続けて貰う。
そして………
都合の良い推測だろうがなんだろうが、
一縷の望みを賭けて猿飛佐助からの一報を待つ。それしか為す術は無いーーー
後々知ることになるのだが、
この頃当の桜子は
春日山城にて行われた宴会の影響で二日酔いになっているという、なんとも間抜けな有り様だったらしい。
そんなことなど想像もしてなかった私は、表面上冷静を保ちつつも心の中では心配に心配を重ねていたのだったーーー。
「ふぅ………」
溜め息と共に煙を吹き、フィルターすれすれに短くなった煙草を持参した携帯灰皿へ捨てる。
さて、もう城へ帰ろうかなーーーと、飲み掛けていた茶を啜っていると。
私の目が捉えたのは、
姉の肩にそろりと忍び寄る大きな手。
………またか!
次から次へと湧いてきやがる虫どもめ………!
例の如くナンパ男が迫ってきたのだろうと瞬時に判断し、その武骨な手を鷲掴み勢い良く捻り上げた。
「うおっ、いって!おいおい俺だよ、俺」
・・・・・
聞き覚えのある声。
ゆるゆると手を離し
視線をずらして見上げれば、
そこには眉を歪めた伊達の姿ーーー
傍らには呆れ顔の徳川が佇んでいて「だからやめとけば良かったのに」とぽつりと呟く。
「ったく、とんでもねぇ馬鹿力だなお前は」
「……なんだ、あんた達か。びっくりさせないでよ」
「そりゃ、わざとびっくりさせようとしたからな。予想以上の反応だ」
慌てた私の様子を垣間見れて楽しかったのか、伊達は悪戯な子どものような笑みを咲かせていて。
拍子抜けしていると、横ではまたもや鈍感な姉が何事かと首を傾げている。