第15章 フレンドシップ・リレーション
一月・睦月
元旦も過ぎ、
灰がかかったような、濁った白色の空模様は
日が暮れるにつれあっと言う間に暗くなりーーー
積雪も多いこの時期。
吹雪が轟々と横殴り、閉め切った戸板がカタカタと鳴る。
そんな越後の冬の寒さを暖めてくれるような夕餉に桜子は舌鼓を打っていた。
「美味し〜。出汁が良い感じ〜」
俺の向かいに座る彼女は
上機嫌で大根をもぐもぐと頬張っている。
膳に置かれた小鍋の中には他にも、蒟蒻や練り物など多くの品々が汁に浸っている。
そう、今夜のメインメニューはおでんだ。
「おかわりっ!」
「それ次で三杯目だろ。食い過ぎだ」
飯櫃を抱えた女中から、米を山のように盛られた茶碗を受け取る桜子さんの隣で幸は呆れた顔をしていて。
その様子に信玄様がくすりと笑う。
「天女の食べっぷりは見ていて気持ちが良いよ。そういえばお年玉は無駄遣いしてないかい?」
「うん!ありがとう信玄様!」
にこやかに進む会話にすかさず横槍が入る。
「信玄様、あんまりこいつを甘やかすなよな。大体なんで年玉に金やるんだよ。餅でいーだろ、餅で」
「天女が居た世では餅ではなく金をやるらしいと聞いたもんでね。可愛いからいくらでもあげたくなるなぁ」
「……ったく」
二度目の呆れ顔で小鍋から取った竹輪を口に放る幸を尻目に、早々に食事を終えた謙信様がすくっと立ち上がった。
「謙信様、晩酌しに行くの?私も後から行く!」
「お前の絡み酒は小煩くて敵わん。独りで結構だ」
「えーっ、つれないんだからー」
両頬を膨らませ、いじける桜子さんに構わずスタスタと去っていく冷たい背中。そんな態度だけど彼女の事を相当気に入っているのを俺は知っている。
謙信様だけではない。信玄様もまるで娘のように猫可愛がりしている。幸は口先ではああだけどベタ惚れなのは隠しきれていない。
ーーー昨年の秋口に起こった騒動の事後処理や対応に追われて、年明けに予定していた幸と桜子さんの祝言は春先に延びたが、あの一件以来二人の仲は更に深まったようだ。