第2章 邂逅
先程まで動いていたそれに手を当て、確認する。
………………。
「うん、ミッションクリア」
安堵のため息を吐くと手を離し、それに向かって装備を投げていく。
赤いハイヒール。安物のアンクレット。控えめなイヤリング。うざったいドレス。
そして。
首もとをぺりぺり捲り、思いきり振りかぶる。
瞳がない、金髪の誰かの顔を。
それでももう一枚被っている訳だから、素顔を晒してはいない。
それから備え付けであろうクローゼットから適当な服を拝借。サイズが合っていなくても絞るなり裾を折り返すなりすればいいだけの話。
勿論指紋を残さぬよう、中にあった服で念入りに拭き取って。
「…ばかでかい」
わしゃわしゃと未だ偽物である髪をかき回し、先刻発した声よりも幾段低い――中性的な声を出す。
少し大きめのワイシャツ。何もかもが余るパンツ。素っ裸やドレスよりも幾分動きやすい。
それに体型が隠れたため、一目で女だと気付かれにくい。これは好都合。
ペタペタと窓際へ近付き空気を招く。
ここは地上八階。運が悪ければ命を落とす。
「それでもここから逃げてやるけどね」
踵を返し、フェイクのため扉を開放した。
その時。
何やら話し声と足音が聞こえてきた。
「これは……男二人か」
聞こえた情報から判断しつつ、脱ぎ散らかしたものの上――ベッドの天蓋に登り身を隠す。
あのスケベ爺、人払いはしてあるって言ってたのに。面倒だな。