第3章 憎悪
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「みいこちゃーん、コーヒーおかわり」
その声に満面の笑みで応える。
私が六人のマフィアに襲われてから早くも三日程が経った。幸いあれ以降依頼が入ってこなかったため、この数日熱の方は薬で誤魔化し副業である喫茶店経営に精を出していた。
店内はカウンター席が6席、テーブル席が8席の小さな店だが、我ながらなかなか繁盛している。
ちなみに"みいこ"とは店内での私の偽名だ。
いつ何時”そっち側”の人が出入りするかわからないからね。
「はい、コーヒーです」
「みーちゃん会計よろしくー」
オーダーが絶えず正直一人では目が回りそうなほど忙しいのだが、お客のほとんどは常連さんで、その上優しい方ばかり。身を隠すために始めたけれどなかなかに楽しい。
まあ、素顔でいることも大きいのだろうけど。
ついでに、声は地声よりも少し高めのいかにも女の子、なものを使用している。単に客受けがいいから。
「みーちゃん、他にスタッフさん雇わないの?」
会計処理の合間、ネクタイを少し緩めたスーツのオジサンが私の顔を伺う。
「今のとこ予定はないですね。確かに大変ですけど」
金額を伝え、オジサンを待つ。
「でも、こうした皆さんとのお喋りが楽しいのでまだ大丈夫かなって」
微笑みながらそう続けると、オジサンは顔を真っ赤にしフルフル震えだした。
そして、音を立てて会計皿に万札を叩きつけると
「お釣りは持ってけ天使コノヤロー!」
と、叫びながら出ていった。
……天使?
っと。呆けている場合じゃなくて。
慌てて私も飛び出し、走っていく背中に向かって声を張り上げる。
「いってらっしゃい!」
私の店ではどんなお客さんでも"いらっしゃいませ"などの接客用語を一切使わない。
そう、どんなお客さんでも。
「こんにちは」
「このカフェ初めてなんだけど、おねえさんのオススメ教えてほしいな」
背中からの声に反射的に振り向くと。
そこには黒のスーツにピンクのシャツを身に着けた、見覚えのある若い男性が。
「こ、こんにちは」
いらっしゃいました。