第5章 夢への交響曲
【轟side】
『………ラブのほうは、もう諦めてるから。』
轟「…それは、自分の個性のせいで、か?」
突然、歌の表情が曇り、瞳には悲しみの色に支配される。
昨日の話を聞いてる限りでは、個性があるから、悪い大人に利用されいろんなものを諦めてきたように見えた。
『……半分、正解で半分不正解。』
轟「半分…?」
『…暗い話は終わり!今の私には、母を超える歌姫ヒーローになるっていう夢があるからいいの!色恋にうつつを抜かしている暇はなし!』
そう明るく取り繕ってはいるものの、それは去勢だということがはっきりとわかる。
日の当たる場所へ躍り出ると、彼女はいつものように歌いだす。
『~♪~♪』
だけど、その歌にはどこか暗い色を含んでいた。
轟「…なぁ、俺、歌のこと好きだ。」
『……えっ?』
轟「歌の歌を初めて聞いたとき、親父のこと……いろんなしがらみを忘れて心がすっきりした。それからずっと歌のこと、目で追っちまう。気づいたらお前のことが頭から離れられねぇんだ。」
『………ごめん、私は、』
轟「“恐ろしい個性だから人を傷つけてしまうかもしれない?”」
俺の言葉に歌はビクリ、と体を震わせる。
本当に、こいつの闇は根深いところにまではびこっている。
俺は、ふっと表情を和らげて彼女の腕をつかみ、俺の腕の中へとおさめた。
轟「そんなことねぇよ。大丈夫だ。」
この一言でどうにかなるとは考えてねぇ。それでも、今、俺の腕の中にいる間はどうかすべてを忘れてほしい。
でもそれは、いとも簡単に崩れ落ちる。
歌が俺の胸を押し返して、腕の中から逃れる。
『……ごめん、私……』
気づいた時には、彼女の瞳から大粒の涙があふれていた。