第4章 胸に秘めし狂詩曲
【飯田side】
今日の用事を済ませて、時間が空いたので病院前まで行くと夕焼けに染まる空を見上げて呆然とする優雅崎さんがいた。
声をかけると、驚いた様子だった。
天「…家はどっち方面だ?送っていこう」
『えっ、いいよ一人で帰れるよ?』
天「何を言っている!女性を一人で歩かせるわけにはいかないのだ!!」
もう夕暮れ時だ。いつ何時淑女を襲うぶしつけな輩が現れるのかわからんのだからな!
…というのは都合のいい言い訳で。実は彼女が敵連合に狙われたという情報を聞いて心配になっただけなのだが。
『なら、お言葉に甘えて…。』
なぜか泣きそうな顔でお願いされた。なぜ泣きそうな顔をするのだ!女性の涙には弱いのだぞ!
天「うむ。では行こう」
そんなこんなで二人で夕暮れの街を歩く。
その間に彼女の個人的な情報を知る。
ここへ来る前は、鎌倉の祖父母を家にいたため、今は一人暮らしであること。
母子家庭であったためある程度のことは一人でできること、
……父親は誰だか知らないということ。
ふと、そんな話をしていると、彼女がある一組のカップルを見見つめて足を止める。
『………。』
天「ん?急に足を止めてどうした?」
『ん?んー…なんだか、羨ましいなって』
天「なんだ、ヒーローを目指すものとして、そんな色恋にうつつを抜かしている暇などないのだぞ!」
『いや、……まぁそうだよね。ごめん』
ん?言い過ぎてしまったのか?!いや、そんな感じではなさそうだが…。別に彼女が色恋に夢中になるタイプではなさそうだが…。
彼女の眼には悲しみが見えた気がした。
天「…言い過ぎてしまったか?」
『え?!いやいや、全然!むしろ委員長の言うとおり、色恋にうつつを抜かしている暇はないよね!』
天「…そうなのだが…。…もし、力になれることがあるなら、何でも言ってくれ。できる限り善処しよう。」
彼女のことを思って言ったはずなのに、一瞬目を見開いた後、
『ありがとう』
と今にも泣きそうな、儚い笑顔でお礼を告げられた。
―――俺はその笑顔が脳裏に張り付いて、離れなかった。