第2章 始まりのアレグロ
【歌side】
爆豪が何を言いたかったのかは、結局よくわからないまま個性把握テストは始まった。
第一種目:50m走
私は自分の頭の中で歌を歌う。
幼いころ、母と一緒に歌った曲。幸せの曲。
その曲が私の心を躍らせ、心を弾ませる。
「よーい、ドン!」
そして、その状態で50mを走りきる。
結果は…5秒43。
なかなかいい記録じゃないか。
私の個性は言霊。だけどあまりに威力が強すぎるため、歌に思いを乗せる歌魂としている。それは息を吐く向きが外向きであるように、外に向けて自分以外の対象に向けてしか使用できない、と思い込んでいた。が、今日ここで初めて気づいた。
そうだ、私だってやればできるんだ。自分にも歌魂が効くんだ!
……そう思い込んでいた。
異変に気付いたのは、第4種目が終わったとき。
目の前がぐらぐらと揺れる。それこそ、震度7とかの地震が来てるんじゃないか、と思うほどに。
そして目頭がものすごく熱い。そして息切れも激しい。
『なんだ、これ…。』
何か黒い塊が自分の中に蓄積していくような感覚に襲われる。さすがにこれは、自分でもまずい、と感じた。
だけど、あともう一種目。それさえ終わってしまえばこっちのもんだ。
そして、第五種目:ボール投げで私の番がやってきた。とにもかくにも、思いっきりボールを投げた。
…つもりだったのに。
相「記録は、25m」
『えっ』
周りもどよめくのが一瞬にして分かった。ここまで好調だった記録もここで途切れるのか、そう考えただけで目の前が真っ暗になった気がした。
…どうしよう、どうしたらいい。考えろ…。