第8章 ミスリードは色褪せない/六い・六ろ/現パロ
「おーい、緑茶とりんごとコーラと…」
両手にジュースを抱えて、ベンチにいた三人に歩み寄る。「どれがいい」と俺がつづけるまえから、仙蔵とは身を乗り出した。
「ありがとう。まあ座れ」
「潮江くんわたしの横、空いてるよ」
「? いや4人は狭いだろ。となりのベンチに座る」
俺はとなりのベンチを顎で指すが、ふたりのあいだに座る長次もなにかいいたげだ。
「あっ」突然、仙蔵が大声をあげる。見ると、が無言で膝を立て、顔を伏せていた。
「泣いたぞ文次郎が冷たいからっ!」
「えええぇ?!」
「…」
「長次も『そんなにのとなりがいやなのか、そうなのか?!』といってるぞ!!」
「なっなんなんだ…!座るよ!やかましいな…」
「 … 」
「 … 」
俺がのとなりのスペースにギリギリで腰掛けると、彼女は顔を上げ、へらりと無邪気に笑う。その向こうに長次の興味深げな顔、そのまた向こうに仙蔵の笑顔。
視界の端には地面にどこからか飛ばされてきた紙切れがあり、尻と背に感じた感覚は、ふつうのベンチとはちがうような気がした。
“ペンキ塗りたて” 強調されたおおきな文字。
「 … 」
おもわずすこし浮かせた背から、湿った音がした。
「おまえらあぁぁ゛ぁ゛」