第18章 おひとついかが/億泰
「確かにこれをお婆さんが桃太郎に持たせるわけないぜ」
吉備団子の柔らかな歯触りと、しっかりしていながらも上品なその甘さを味わいながら、おれは女性名とともに笑みを溢した。
「家で素人が作れる代物じゃねえもん!動物に食べさせるのも毒だっつの」
「きっと、その黍団子はもっと茶色くて固かったんでしょうね。それに砂糖なんてふつうの家にはないし、穀物の甘さしかなかったのかも」
「そっかあ…」女性名のことばに、おれはお婆さんの優しさと(しらないけど)、当時の主婦の苦労におもいを馳せてしまい、なんともしみじみする。それなのにおれはこんな贅沢な和菓子を見返りもなくもらうことができるんだな。
「……由花子、なんか企んでると決めこんじまってわるかったな」
「あたしのために冒険になんか出掛けられても困るわ。ところでね」
「あん?」
「あたし、お昼休みにマフラーを編んでおきたいのに用事ができてしまったの、代わりに行ってきてくれないかしら」
「…?!」
「ふたりとも、お団子の借りを返したいわよね?」
「ほらァーーッ!!」
「それわたしたちが代わりに行っていいやつなの?!」
「ある2年生に手紙で呼び出されたの」
「ヒエエ…なんで由花子への告白をおれたちが聞かなきゃならねえんだよ…」
「だれだかわからないけど2年生かわいそう…」
☆
マフラーはふたつ編んで、もちろん康一くんとお揃いにするのです
由花子さんは狡猾なのではなく康一くんのことしかかんがえてないだけです