第2章 この世のすべてでありますように/ジョナサン
勉強の時間。穏やかな午前に、ぼくは先生を木登りに誘った。
「なん年ぶりかな」
と明らかに瞳を輝かせる女性名がぼくはおかしい。
「女性名、木登りしたことあるの?!」
「でも、おとなになってからは機会がまずありません」
教えてください、なんていうので、ますますおかしいやら、ざわざわする。
まるですでに、ぼくの心だけが木の枝のあいだで、葉のざわめきの雨のなかに包まれているかのように。
驚く執事に外出を告げ、女性名と屋敷から飛び出て、心に追いつこうと走る。
初夏の丘の、楢の木に、ぼくの心はいた。
根本にたたずむと、木漏れ日がふたりを誘う。あとから軽快な足音が追いつき、ぼくの賢い兄弟が腕にじゃれついた。
「女性名はどうしてうちの先生になることになったの?」
以前、ぼくはこの女性家庭教師の先生に、そう尋ねたことがある。
女性名はもとからジョースター家となにかゆかりがあったわけじゃない。
女性だから、大学を出た実力のある先生というわけでもない。
むしろ学問を虚構だといって、ニヒルな姿勢をみせているんだ。「虚構しか真実に通じない」そういって、小説のように学問に親しむことをぼくに教えてくれた。
…あまり先生らしくないんだ。なにか、特別なきっかけがなければ、父は女性名を雇わなかったにちがいない。
「わたしと父はジョースター卿にご恩があるんです。あなたを教育してわたしはご恩に報いると約束したんですよ」
女性名が話してくれたのは、それだけだった。
でもじっさい教育するというより、女性名はぼくと遊んでくれている。
ダニーほどじゃあないけれど、ぼくらは長いこと友だちで、ぼくはこのおとなになら素敵な場所や遊びを、隠さず分け合える。
そんな場所に書物を持参して、勉強の時間を過ごすんだ。