第13章 つまりは噎せるほど憎たらしい/ 呪いのデーボ
女はおれをただちに仕末しようとした。しかし、おれはスタンドを出す必要も感じず、その、感情を豊かに語る瞳に見惚れ――――そして吸い込まれるように、彼女に接吻をしたのだ。
そのとき瞳は、底なしのどす黒い愛を語っているように見えた。
「おれたちは、点灯式で浮かれた世間の足元をすくいに来た殺し屋だぜ。その式のあったスケートリンクで遊びたいとは、どこまでも世間をナメきったやつだ」
おれは呆れたが、しかし、白いスケートリンクを滑るふたりのすがたを、確かに想像することができたのだった。女性名と離れることなど、おれの発想にはもはやあり得なかったからだ。
「おまえはなぜおれを憎む」
おれはストールに顔を埋めた女性名に尋ねた。あのどす黒い愛を思い出しながら。
殺し屋どうしの獲物が被ってしまうことはあり得ないことじゃあない。おれを殺しにかかる以外にも、対処できたはずなのに、女性名は躊躇することすらなかった。まるで仕事に邪魔となったおれを仕末するためではなく、純粋な殺意に突き動かされたかのように。
「なぜだか、じぶん自身を殺してやりたいみたいに、あなたが憎たらしくてしかたないのよ。デーボ」
相手を振り返り、おれはうしろ向きに滑る。自身の髪が肩からなびき、その毛先が、白く凍てついているのが見えた。おれの口元はいま、きっと不気味に微笑んでいることだろう。
それを真っ直ぐ見据えながら、彼女はことばをつづけた。
――――わたしの憎悪のありのたけで、全身を腐らせてほしいの。
「殺してやりたいっつうのは、諸手を上げて愛しているというのと、おなじだとおもう」
おれは女性名の腕をそっと掴んで、その場に立ち止まらせた。
それほどの憎悪を、昨晩出会ったばかりの人間に、手放しに溢れさせることができるものだろうか!誓っていえるが、それ以上の愛のことばをおれはしらない。
おれはクリスマスに感謝さえしている。女性名とおれを導き、鉢合わせたのは、ここに燦然と輝く、スワロフスキー・スターでなくて、なんだっただろう。
リンクの真ん中に、ふたりはぽつんと佇む。おれは跪く。