第12章 ハヴ・ア・ドリーム/億泰・形兆
「おー!」本人はそれを広げ、眺めてみる。
ボンタンのバサバサした音のなか、形兆はつぎにわたしのスカートを台に載せて、プリーツを整え始めた。「よし…やるか」
折り目を正し、真剣な眼差しで指先に神経を集中させる。
その静かな横顔を見つめて、わたしはおもう。だからわたしたちは、形兆に下衣を剥ぎ取られてパンツ一丁になっても、すこしも文句をいわないどころか、むしろうれしいのだ。
「形兆はさ」
いまだ正座したままのわたしは、その横顔に、尋ねてみることにした。
「なんのパンツ履いてるの?」
「てめーセクハラか」
「部長じゃないけど」
「だれもセクハラ部長とはいってねえだろ!」
というより、この居間の状態そのものがセクハラでなければなんとするつもりなのか、わたしにはわからないけれど、しかしいま気になるのは、形兆の黒いズボンの下に、確かに存在するであろう、その下着のことなのだった。
「億泰がドル札なら、形兆はもしかして日本の万札?」
「ちがうな。ユーロの柄だ…あっ」
「あっ」
「…なんだよ!!!」
「いやニアピンだったとおもって…」みずからうっかり口を滑らせたのに逆ギレされつつも、わたしはヨレのなくなって見違えたスカートを形兆に突きつけられ、面食らってしまった。
「なにしてんだ、ほらよ」
つづけて立ち上がった形兆は、キョロキョロしている億泰に、さっき抜き取ったベルトを差し出してあげるのだった。
「えっと…もう1本のベルトは…」
「おう、ここだぜ」
わたしはその背後に回る。
形兆のおおきな背中。その下にある腰のベルトに手を下ろすと、素早くそれを解き、おおきな彼のボンタンは、易々と、床へ落ちたのだった。
ぱさり…と。
「これは…建物?」
現れたユーロのお札だというその柄をわたしと億泰は眺めた。はじめて見るお札ばかりで、なんの建物なのかわからず、まじまじと見入ってしまう。
「へーっ、人間の肖像じゃあねーんだな」
「てめーら、弁当抜きだ」
☆
おそらく禿げたおじさんはフランクリンだとおもわれます