第5章 星も水も/支倉
わたしはいま、学生鞄を持って駅前に立っている。
それは帰宅ラッシュまえの、人気ない杜王駅前広場にまちがいないのだけれど。
けれどその日の広場は、見たことのないほど輝いていて、わたしはいつものように、噴水の横をただ通りすぎて行くことができず、立ち止まったのだ。
金色の広場で、金色のタクシーが客待ちをしている。ふと遠くに、金色の電車が横切っていった。すぐに駅舎に隠れて、アナウンスが聞こえる。
そして広場へ視界をもどすと、きらきら光る噴水の向こうに、金色の妖精が、見えたのだ。
「未起隆くん」
「女性名さん」池の縁に腰掛けていた彼は顔を上げた。その笑顔を見て、わたしは、ここに金色の魔法をかけたのは彼だと確信したのだった。
このひとがいれば、わたしの世界は完璧だ。
未起隆くんの隣には亀が1匹、上がってきている。それを挟んでわたしも腰掛けることにした。
「亀と遊んでいたの?」
「ええ。この池に住んでいるみたいですね」
「撫でてもいいかしら」
「どうでしょうか…」未起隆くんは亀に視線を落とした。
長髪を後ろへ流したその額には、血管も皺もない。ただ、美しい眉の形がよく見えて、その下には白い瞼の伏目があるのだった。
「哺乳類とちがって、撫でられてもあまりうれしくないかもしれませんね」
特に理由もなく、わたしは未起隆くんの額を撫でる。
生え際の産毛に掌をくすぐられるのを感じつつ、流れの通りにほとんど青白くもある金髪を撫でた。
彼はわたしの視線に拘束されて、ぱちくりする。
「うれしい?」
手を離してわたしが尋ねると、うれしいです、と満足げに相手はいった。
哺乳類なのかしら…わたしの疑問の声を掻き消すように、金色の電車を降りたひとびとが、駅舎から出てきて、噴水のそばを歩いて行く。
☆
宇宙人に哺乳類とかあるのか…