第1章 恋をするなら木星で/億泰
掃除当番からもどろうと、校舎のうらを歩いていると、まえを歩く女子が不意にコケた。
「うぉお?!」
こっちまでコケるかとおもった…!
児童向けアニメのようなそれは見事なコケっぷりに、唖然としているおれと、むくりと起き上がった無表情のそいつとは、バッチリ目が合ってしまった。
なにかいいたげな視線だ。
「…虹村くんにカルピスをあげると幸せになれるってほんとう」
「しらねーよ」
擦りむいた膝で立ち上がったそいつの手には白地に青の水玉の缶。
「…そんなうわさ流れてるの?」
ちょうど飲みたかっただけに、缶から視線を外せないままおれは尋ねた。
「最近販売機のカルピスの売り切れ、おおいとおもうでしょ」
「たっ確かに」
「だからこれはわざわざコンビニで買ったんだけれど、ここで会ったのも縁ね」
そいつはおれの手に缶を握らせた。「あげちゃうわ」
「虹村くんから女性名さんにいいことが起きますようにってお祈りしてよね」
「おれは地蔵かなにかかよ…まあもらえるならもらうけど」
女性名というそいつは、さっきまで動転していたのに顔を綻ばせてクスリと笑った。
「もらえるものはなんでももらうって、いつかいってたとおりね」
「病気以外はな…え? なんでしってるの?」
「虹村くんの声いつもおおきいじゃない。それにジョジョといっしょだから目立つし」
「なあんだ…仗助のおこぼれかよ……」
「そんな渋い顔もするのね」
笑う女性名のとなりでおれの肩は縮こまる。
おれもすこしは女子に注目されているとおもったのにな…仗助とはベストコンビとはいえ…まだ夏休み終わったばかりのいまから2月14日が恐ろしいぜ…
「…おれ自身がお祈りしたいところだっつーの…」
「モテたいって?」
「なんでわかったッ」