第1章 皆でお祝い♪ ゼノ様バースデー!
~キッチン~
「マイン様、パイ生地伸ばすのは俺がやるよ」
パイ生地を作り終えて、さあっ、と気合を入れている私に、ユーリがすかさず声をかけてくれた。
「これは、俺にまかせて」
「うん、ありがとう」
じゃあ、と、パイの中身にするニシンを切り分け始める。
それから小骨を丁寧に抜いていく。
………ふと、以前、ゼノ様と話した事が思い出される。
『俺の好きな食べ物?』
『はい、ゼノ様のお好きな物で料理をしたいと思いまして。あ、逆にお嫌いな物は、ありますか?』
いつも贈り物をもらってばかりなので、何かお返しができればと思いついたのが、得意な料理でおもてなしをする事だった。
何がお好きなんだろう………瞳を輝かせてゼノ様を見つめ、答えを待っていた。
そんな私に、ゼノ様は笑みをうかべながら、こうおっしゃったのだった。
『それなら………決まっているだろう。お前だ、マイン』
『………私、ですか?………えっと………それって………えっ、ええっ!?』
言葉の意味がわからず、目を瞬かせた。
けど、少し遅れて、ゼノ様が何をおっしゃりたいのか理解した途端、カアッと頬が熱くなっていって―――。
そんな私に構わず、ゼノ様は続けた。
『嫌いな食べ物は、魚だ』
『え、魚が、お嫌い………なのですか?』
意外な言葉が返って来て、つい声のトーンが上がってしまう。
ゼノ様と幾度と食事をしてきて、魚料理も度々出てきていたはずだった。
しかし、そんな素振りなど、微塵も感じられなかった。
『幼い頃、母がニシンのパイを作ってくれた事があってな』
ゼノ様は、遠い記憶に思いを馳せるかのように目を細める。
王妃であるお母様が手料理をふるまうのは、滅多にない事だったであろう。
だからこそ、特別な思い出なのだろうな。
幼いゼノ様は、ニシンのパイを喜んで頬張ったのだろう………そんな微笑ましい情景が目に浮かぶよう………。