第2章 ピアノレッスン~イケヴァン・モーツァルト~ 序章
「じゃ、後で迎えに来るから」
そう言って、ヒラヒラと手を振って去って行くユーリの姿を見送りながら、もう一度深呼吸して、モー君の部屋のドアをノックする。
コン、コン。
―――。
少しの静けさの後、私は再度ノックをする。
コン、コン。
―――え、まさかと思うけど、いない、とか?
ドタキャン?
………は、ないよね?
私は、意を決して、ドアノブに手を掛ける。
「失礼します………」
控えめに呟きながら、扉を開ける。
無機質な部屋。
真ん中に置かれたグランドピアノ。
無造作に散らばった紙の束。
それらに目を奪われていると………。
「誰」
すぐ横で声がして―――。
「え?わっ!あ、あなたこそ誰!?」
とっさに………そう言ってしまって、はっとする。
「誰って……ここ、俺の部屋。訪ねて来たのは、そっちだけど」
パープルの瞳に見据えられて………。
「………っ、モー君………」
そう呟くと、彼は、明らかに嫌そうに顔をしかめる。
「ウィスタリアのプリンセスだね………ほんとに来たんだ」
「あ、あの、初めまして。私、マインと言います」
「俺は、ヴォルフガング・アマデウス・モー・ツマラナイト」
「ごめんなさい。初対面なのに、モー君とか馴れ馴れしく呼んでしまって……あの、なんとお呼びしたらよろしいですか」
彼のあまりの冷たい、拒絶感さえ覚える態度に恐縮してしまい、しどろもどろになる。
「………名前、長くて呼びづらいだろうから………いいよ、もう。モー君でいい。それから………プリンセスなんだから、俺に敬語使う必要ない」
「あ、うん。じゃあ、私のこともマインって呼んで」
「マイン」