第23章 猫と一松
<一松side>
デカパン研究所から戻って数日、ヒナは人間に戻らないままだ。
猫のまま、俺から離れない。
どこかに行ったりもしない。
おとなしすぎて本物の猫になったようだった。
俺はおそ松兄さんに呼ばれた。
「一松さぁ、あんとき何かしただろ?」
「え……?」
「お化け屋敷でたとき、お兄ちゃん気づいてたんだけどさ。
ほら、お前、唇切れてたし」
ニヤニヤと笑うおそ松兄さん。
めんどくさい奴に見られていた。
「……それが何?」
「いや、そのことは別にいいよ。
まぁよくねーけど……でも、俺も気持ち分かるし。
たださ……
お前、ヒナが猫のままでもいいと思ってね?」
「……は?」
「猫のときのほうがお前にとっては楽なんじゃないの?
だってお前、ヒナが人間に戻るとずっと一定の距離取ってるだろ」
「……」
そんなことないって俺は言えなかった。
そのとおりだから。
ヒナが人間になると真っ直ぐに見られなくなる。
俺に向ける笑顔も視線も全部が眩しい。
大切で守りたいって思うのに、近くにいられない。
いっそのこと、ヒナがずっと猫なら俺のそばから離れないだろうと思っていた。
「お前の気持ち次第なんじゃね?
よく考えろよ」
俺の気持ち?
俺の気持ちなんて、どうでもいいだろ?
こんなクズに想われてたって……