第23章 猫と一松
「……ねぇ、やっぱりやめない?」
お化け屋敷に着くと入る前から完全に怖じ気づいてるヒナ。
「だ、だよねー?兄さん達よくこんなの入るよね」
すでに他の兄弟達は入って行ったので、死んでも入らないと駄々こねたトド松と俺達二人しか残っていなかった。
「……じゃあ、いい。俺、一人で行くから」
「やっ待って待って!一松ってば」
「ヒナちゃん!
で、出口で待ってるからねっ」
俺のパーカーの裾を持ってビクビクしながらついてくるヒナ。
ふ、そうこなくっちゃ……
薄暗い中進んで行くと、ドンッとか、バンッとか、音で怖がらせ始める。
雰囲気は悪くないけど、音だけ出されてもな。
と、俺は思ったが、ヒナは恐怖に震え、俺の腕にしがみつく。
柔らかい感触が俺の腕に当たる。
し、しまったぁー!
恐怖の顔見たさに一緒に入ったが、密着することを考えてなかった!
むむむ、胸が当たってるっ!
「あっ、あんまりっくっつくな!」
「やだっ、一松離れないでっ!
怖いからっ!」
「だっ、お前、腕に当たってる!」
慌てた俺はヒナの腕を振り払って、少しだけ離れ、どうにかなりそうだった動悸を落ち着かせようとした。
「やだっ怖いよ……
一松、どこにいるの……」
暗さと恐怖で周りが見えていないのか、俺はそんなに離れてもいないのに、ヒナは怯えて立ち尽くしている。
俺はちょっとしたイタズラ心から何も喋らずに、ヒナの様子を見つめていた。
可愛いな……
普段、人間の姿だとよく見れないし近寄れない。
そんな勇気がない。
次第に震えながら泣き始めたヒナに俺は興奮した。
近くにいるって、教えてあげようと思った。
でも俺は声を出す前に身体が動いた。
ヒナの落ちそうな涙がもったいない気がして、頬を舐めたんだ。
「い、一松……?」
暗いと視線が合わないからいい。
こいつの真っ直ぐな目が俺に向いてないと何でも出来そう……
俺は暗闇の中、ヒナにキスをした。