第13章 優しさの奥に見えるもの
「レディ……?」
カラ松が私をレディと呼んだ。
「え……っ?!なんで?」
私は元の姿が戻っていることに驚き、屋根にいることを忘れ、立ち上がってしまった。
「レディ!」
バランスを崩し、屋根から落ちそうになる私の腕をカラ松は引き寄せる。
そのまま私はカラ松の胸に倒れこんだ。
「なぜ……これは夢?ドリーム?
それとも俺の願いが届いたんだろうか」
カラ松は私の髪を取り、まるで確かめるように髪へ口付けをする。
「え、えと……何を願ったの?」
「君に会いたいと……
何度も何度も星に願った」
強く強く抱きしめられる。
まるで私を胸の中へ閉じこめるように……
「カラ松、ごめんなさい。私、約束もしないで帰ってしまって」
「いいんだ。こうやってドリームでもレディの顔が見られるだけで」
「でもあの……ちょっと離れない?」
人間の姿で高いところにいるうえに、ずっとカラ松が耳元でしゃべっていることに私の心臓は破裂しそうなくらいドキドキしていた。
「ダメだ」
「だ、だって……」
「離したら、いなくなるだろ?
ドリームなら俺の側から離れないでくれ」
「カラ松……」
「ヒナ……」
私の名前を呼ぶのは卑怯だ。
どうやらカラ松に名前を呼ばれると私は弱いらしい。
カラ松が真剣な顔になり、片手で腰に手を回し、私の顎を持ち上げた。
目を瞑ったカラ松の顔が近づく。
触れるか触れないかというほど距離になったとき、私は自分の身体が小さくなったことに気づいた。
カラ松の私に回していた手が空を切り、バランスを崩して屋根から転がり落ちた。
ドカーン!と、ベランダに激しい音が響く。
他の兄弟たちが何人か窓からベランダを覗きこむ。
「っせーなっ!何やってんだ!カラ松!」
「……った……レディ!?」
カラ松が慌てて屋根を見上げる。私はサッと見えないように隠れ、別の窓から部屋へ入った。
「ジーザス!やはり夢だったのか!?
もう少しだったのに!」
「うるせー!さっさと寝ろ!」
私は寝たフリをしながら、自分のうるさい心臓と戦った。