【イケメン戦国】Love is not needed.
第4章 その3
幸村と別れ、来た道を戻り安土城へと続く帰路の途中。
ななしはぽつりと呟いた。
「…ホオズキと…オダマキ……」
幸村の店で手に取った櫛。
最初こそ、派手すぎない木目調と豪華かつ細やかな彫刻に惹かれて魅入っていた。
しかし、彫刻の花がホオズキとオダマキだとわかった途端、彼女の思考は停止した。
それと同時に、あの女の声が勝手に頭のなかで響いた。
現代にいたころ、彼氏の浮気相手から言われたあの言葉が。
(ななしさん、お誕生日おめでとうございます。彼氏さんに言われてななしさんをイメージした花束を届けにきました。)
(ホオズキとオダマキがポイントなんです。えっと、花言葉はなんだっけなぁ…よかったら調べてみてください。)
ななしの誕生日に、彼氏が贔屓にしている花屋に頼んで花束を届けてくれた。
当日に会えなかったからだ。
彼からの贈り物をとても嬉しく思う一方、ななしは届けに来た店員が気になった。
ななしよりもいくつか若い女の店員だったが、張り付けたような作り笑顔と、どこか鋭さを含む視線。
なんとなく嫌な予感がした。
こういうときの女の勘は当たるものである。
店員が帰ったあと、ななしは花言葉を調べた。
ホオズキとオダマキの花言葉は
「偽り、ごまかし」と「愚か」
この数ヵ月後に、あの店員と浮気をしていた彼氏から別れを切り出されたのだ。
元々、ななしの彼氏は浮気性だった。
それでも、最後に帰ってくるのはななしのところだったから、今まで彼女は目を瞑っていた。
が、この店員との関係は、ただの浮気相手じゃなかったようだ。
「なんでだよ…」
とても小さくか細い呟き。
その瞬間、
「…おや…ななし様、もうお戻りですか?」
「っ!」
不意に声をかけられななしの肩が跳ねる。
見ると、どうやらいつの間にか安土城まで辿り着いていたようだ。
門の前に、三成が立っていた。
「みっつん…」
「はい、みっつんですよ。」
にこやかに答えた後に、三成はスッと真顔になる。
「…お顔色があまりよくありませんね。どうされました?」
あぁ、また心配されてしまったなぁと頭の隅で思いながら、ななしはゆっくりかぶりを振る。