【イケメン戦国】Love is not needed.
第4章 その3
「それにしても本当にかわいいね。」
再びななしは品物を眺め始める。
花や蝶をあしらった品物たちはキラキラしていて、思わず彼女の顔が綻ぶ。
そしてふと、ひとつの髪飾りに目を止めた。
「これって…」
「あぁ、櫛だよ。また地味なの選んだな。」
ななしが手に取ったのは木製の櫛で、塗装もされておらず、ホオズキとオダマキの彫刻が端に小さく施されただけものだった。
ななしは返事もせず、それにじっと魅入る。
「…おい、猪女」
「………」
自分の存在等忘れられたかのようなななしの様子に、幸は途端に面白くなくなった。
「おいって」
「………」
なおも無反応なななしに痺れを切らし、幸は彼女の頬を両手で包み、顔を自分の方へ引き寄せた。
「ななし!」
「うわっ、びっくりした。」
やっと幸を見たななしは、一瞬目を見開いたが、すぐに真顔になる。
「うり坊」
「なんだよ」
「顔近い」
「っ!」
ハッとして、ななしの顔から手を離し距離を取る幸の顔は茹で蛸のように赤い。
「ばっ、お前が何べん呼んでも無反応だからだろうが!」
「それはごめんね。寂しかったのねうり坊。よちよち」
「ガキ扱いすんじゃねぇよ!あぁ、くそ!」
ガシガシと照れ隠しで頭を掻く幸を見て、ななしはまた屈託なく笑った。
「ごめんごめん。この櫛があんまりにもかわいくて。」
「…売れ残りだぞ、それ。」
照れがまだ抜けてないのか、幸はぶっきらぼうに言い捨てる。
「こんなにかわいいのに?買ってあげたいけど、私お金ないからなぁ。」
「…………じゃあ、それお前にやるよ」
「えぇ?!」
今度はななしが驚く番だった。
「いいよっ、商品でしょ?タダで貰っちゃこの子が可哀想。」
持っていた櫛を、素早く元の位置に戻す。
幸はそれを見て、なんとなく寂しくなった。
「じゃあ、金は後払いでいい。売れなくてずっとここにいるより、その方がいいだろ。」
戻された櫛を取り、再びななしへ差し出す。
ななしはそれを受け取らず、ただただ困惑したような笑みを浮かべるだけだ。