第5章 激怒!
エルヴィン・スミスは全身に汗をかき、
状況のヤバさに血の気を引かせていた。
誕生日の夜、好き勝手抱いてしまったナナシは
三日間寝込んでしまい、一生懸命介抱したものの、
彼が起きたらフルボッコされて病院行きになると
覚悟を決めていた。
だが、目が覚めたナナシはエルヴィンを殴らなかった。
普通ならば、殴られなくて良かったじゃんと思われるかもしれないが、
エルヴィンにとってはボコボコに殴られた方がマシな状況に
追い込まれ、頭を抱える。
―――エルヴィンはナナシから徹底的なシカトを食らっていた。
それもただの無視ではない。
エルヴィンが目の前にいようが、そこに何もいないように扱われ、
空気扱いされていたのだった。
食事で同じテーブルに着いても、
エルヴィンだけ何も見えない、聞こえないという風に
他の人間とは楽しく話しているが、
エルヴィンはいないモノとして扱う。
構って欲しくて、パンやおかずなどをナナシの皿に移すと、
自然な動作でそれを他人の皿にスライドさせ、
何事も無かったかのように振る舞われた。
ぶっちゃけ、これがエルヴィンにとってダメージが一番でかい。
ナナシは食いしん坊なので、
まさか食べ物まで拒絶するとは思わなかったのだ。