第2章 メロキフィストという少女
【廊下を走るな】
と書かれた張り紙を横目に、走り出す。
殆どの生徒が部活動に勤しんでいる。
今廊下に無機質な足音を響かせているのは、メロキフィストただ独りだけである。
廊下の角を曲がった所で、背の高い男子生徒とぶつかりそうになった。
メロキフィストが右に動けば、彼も右に動き、左に動けば彼も左に。
タイミングが合わず、苛立ちを募らせるメロキフィスト。
すると彼が口を開いた。
「__珍しいね!その角!」
メロキフィストは動きを止めて、
自分を見下ろす彼を見上げた。
(…なに?)
彼の声には聞き覚えがある気がした。でも、同時に悪寒がした。
メロキフィスト固まったまま男子生徒を見上げていたら、何かわかったような口振りで彼は言った。
「なるほど!俺の格好良さに見惚れちゃった?そうだよね、そんな風に見つめられたら自分がイケメンだって思い知らされるじゃんか!」
生憎、メロキフィストも容姿には困っていない。
さらに身近には、美しい容姿の者がいるのでさして、見惚れもしない。
メロキフィストは目を点にして、自意識過剰な男子生徒のエメラルドのような瞳を見つめた。気にしていなかったが、よく見ればとても整った容姿をしていることに気がついた。美しい白髪、白い睫毛と肌が彼の瞳を際立たせている。
いつの間にか悪寒も鎮まり、呆れたメロキフィストはその場から立ち去ろうとした。
長い方の角を誰かにガッシリと掴まれた。
廊下には、メロキフィストと男子生徒以外にいないのだから、角を掴んだのは男子生徒だろう。
「立派な角だな!スベスベで左右非対称でなんか新鮮!他の淫魔はこんなにも綺麗な角を持ってないだろ?」
ドスッ
鈍い音と共に彼がその場に蹲り、メロキフィストの足下に転がった。
メロキフィストの放ったアッパーが鳩尾に入れられた。
「初対面の方にすることではないかと思います。自意識過剰な男子生徒さん。」
メロキフィストは吐き捨てるように言い、走り出した。