第44章 アバウトミー
『………』
寧々は、握られていたアラタの手をそっと離して
窓際に寄ると、カーテンをほんの少し持ち上げて外を見た。
相変わらず家の前に群がる記者団を眺めながら寧々はゆっくりと首を横に振る。
『…すごく行きたい…
でもごめん、行けない』
アラタは、寧々の側に寄り、カーテンを握る手を取ると
「責任があるから?」
と聞いた。
確かに、この騒動はもはや「寧々がヒーローになるかならないか」の問題ではない。
あのニュースキャスターが言っていた通り、雄英高校が強個性であるが戦闘不向きの生徒を、正しく合否出来ているのか。
雄英高校入試試験の優良性そのものが問われている。
その生贄としての寧々だ。
逃げて仕舞えばどうなるだろうか。
だが、寧々は首を横に振る。
『ううん、違うの』
そして、澄んだ瞳がアラタを見つめて、ゆっくりと細くなった。
穏やかに微笑んで、寧々は…
『好きなの
焦凍と、勝己が
だから、離れたくないの』
アラタは、以前自分が問うた事への返事として
その言葉を聞いた。
ーーー「どっちも欲しいは、どっちも要らないってことなんじゃないの?」
あの時、寧々は、その言葉にひどく動揺していたが
今は堂々と、目も晒すことなく、アラタに宣言して見せたのだ。
2人が好きだと。
アラタは、その微笑みに返すように微笑むと。
「うん、わかったよ」
とだけ言葉を返した。
そして、寧々の手を離して、ニッと白い歯を見せて笑い
「恋さ、させてくれてありがとな。
寧々に片思いすんの、ずっと、楽しかった。」
『アラタ……』
寧々は泣きそうになるのを堪えて、同じように笑うと
『今まで、お姫様みたいに扱ってくれてありがとう
恥ずかしかったけど…嬉しかったよ』
と答えた。
「え?姫扱いはこれからもするけどな」
おどけてみせるアラタにほんの少し胸が痛んだけれど
ごめんね、という言葉はどうしても似合わなくて
ありがとう。と繰り返した。