【YOI男主】僕のスーパーヒーロー【勇利&ユーリ】
第4章 僕のスーパーヒーロー
「もう一度だ!次は上手くやってみせるから!」
落としたコインを拾うと、ユーリは眉を顰めて人差し指を立てる。
「ダメ、コレは1日1回だけだよ。…なんて、偉そうな事言っちゃったけど、実は純の受け売りなんだ」
「サユリの?」
「うん。純は子供の頃、10歳上のお姉さんが練習やレッスンに付き添ってくれてたんだって。その時、同じようにコインを載せてリンクを周るゲームをやって、見事お姉さんからドリンク代をせしめてたそうだよ」
「サユリも結構ちゃっかりしてんなあ」
「でも、純のスケーティングやエッジワークの丁寧さが、判るよね」
「僕のスケーティングは、姉ちゃんから巻き上げたドリンク代で出来てます…ってか?」
「あははは」
2人で笑い合った後は、改めて全身の動きを確かめながら、リンクを周回する。
その内に、両サイドからコンパルソリーの要領で図形を一緒に描いたり、リンク全面を使った両足着地の幅跳びなど、スケートで「遊んで」いたのだが、ユーリはそれが、大きくなった自分の身体の使い方を勇利と、勇利を通して純が伝えてくれている事に気付いた。
(そうだ、今までの俺は、身体が大きくなる前と殆ど変わらねえ飛び方や滑り方でゴリ押ししてたんだ。そんなんで上手くいく訳ねぇのに…)
少し離れた場所から穏やかな視線を向けている勇利を、ユーリは鼓動を早めながら眺める。
(サユリとカツ丼は、俺がそれに気付くのを待ってたのか?こいつらなりに、俺の事を見て…)
「ユリオ、イーグル!」
不意に近付きながら、自分の両手を軽く掴んで来た勇利の声に釣られたユーリは、勇利と手を繋いだ状態で両足を開く。
互いに倒れることなく向かい合わせでイーグルの姿勢を取った2人の足元には、大きな円形の跡が刻まれていた。
「…!」
「ユリオは脚が長いなあ。僕も短くはないんだけど、骨格の差なのかな」
勇利とのイーグルによって出来たそれは、まるで大きなリングのように氷上で輝いていた。
足元の氷のリングを声もなく見下ろしていたユーリは、やがて顔を上げると「勇利」と短く声をかける。
「ユリオ?何…」
応え終わらない内に、ユーリは勇利の手を引き寄せると、今では殆ど目線の変わらなくなった彼の唇に、己のそれを重ね合わせた。