第23章 初心編
「お前にこれを渡したくてな。」
「……え?」
「ほらよ。」
服部は腰に回した手を少し下ろし、
俺の左手の中に押し込む。
ちらりと自分の手に視線を落とす。
…どうやら、何かの紙のようだ。
4つ折りにされていて中は見えないが。
「………何だよ、これ。」
俺がそう言うと服部はにやにや笑いながら
ミックスナッツを口の中に放り込む。
……チッ……ビールとナッツだけかよ…。
知り合いなら、もっと高いもの
頼んでくれてもいいのに。
…………ドンペリとか。
「へっ…後で見てみろ。驚くぜ。」
「………何それ。意味わかんない。」
「おいおいキャバ嬢のくせに口が悪いな。」
「身内に色仕掛けする必要ないじゃん。」
仕方なく服部から受け取った紙を胸に仕舞う。
どうせ偽物の胸だ。
中身はシリコンしか詰まってないから問題ない。
シリコンの中に紙を滑り込ませた。
「真選組がまた隊士を募集してるらしい。
密偵が足りないんだとよ。」
「…ふぅん………。」
「なんだ、乗り気じゃねぇのか。」
俺の反応に、服部がつまらなさそうに言う。
こう言えば、俺がノリノリになるとでも
思ったのだろうか。
「元々は無理矢理履歴書送られたから、
仕方なくやってただけ。
やりたくて引き受けた仕事じゃない。」
俺のために服部が頼んでくれたワインを1口飲む。
…………1番安いやつだ。腹が立つことに。
「俺は元攘夷志士で、柳生家の隠密隊。
おまけに将軍に捨てられた神崎家の末裔…。
一方真選組は、
幕府の犬で…かつ松平の犬で、
実践経験だけが取り柄の家柄のない芋侍ばっか。
どう考えても、得しない組み合わせだ。」
俺は投げやりにナッツを2、3個口に含む。
奥歯でカリカリとナッツが割れる音が響く。
「それに……俺には侍じゃない。
ただ、多少日本刀が使えるってだけ。
そんな中途半端な奴が
真選組に入っていいわけないよ。」