第4章 再就職編
会合の客間に近付くにつれ、
父上やおじい様の声が聞こえる。
「では、神崎澪。
今日をもって君は柳生家を…………」
「待ってくれ!!」
慌てて会場に飛び込む。
中にいたおじい様、父上が
驚いて僕を見る。
けど、そんなことに構ってはいられない。
「父上…。澪の事、許してはもらえないか。」
父上は困ったような顔をする。
父上もいざとなって澪を解雇するとなると
色々思うことがあるのだろうか。
最近澪の事で物凄く怒っていたのに、
冷静に腕を組んでいた。
「若、やめてください。
俺はどんな運命でも
受け入れるつもりでいます。」
「澪!」
それとは反対に、澪は常に真っ直ぐを
向いていた。
僕とは目も合わせずに。
「澪…お願いだ。辞表なんて
取り下げてほしい…
僕の傍にいてほしいんだ。」
「…若。お言葉ですが、
それはできません。」
「何故だ。大体、なんで辞表なんか……」
「…………………。」
僕が聞くと、澪は黙り込んだ。
そして……
「うんざりなんだよ。もう。」
投げ捨てるように、澪は言った。
思ってもみなかった言葉に目を見開く。
「毎日毎日、餓鬼のお守りに
付き合わされてさ…
隠密としての技術も失われるわ、
使わない刀は錆びていくわで
もう飽き飽き。今すぐこんなとこ、
出ていってやるさ。」
「………つまり…もう僕のことを
嫌いになってしまったということか…?」
後ろからだから澪の表情は見えない。
けど、首一つ動かさず言う澪に
動揺はなかった。澪が柳生家を
出ていくと言っていたのは本気だった。
「ああ。」
そうか。澪は…僕のことを嫌いに
なってしまったのか。
じわり、と視界が涙で滲む。
そんな、悲しいことってあるだろうか。
僕は、澪の大切さに今さっき気付いたのに、
澪の心はもうとっくに僕から離れて
いってしまっていたなんて。
僕は修行で強くなったはずなのに、
結局大事なものを失おうとしている。
僕はいったい、何を修行で
学んでいたのだろうか。