第23章 初心編
(土方視点)
俺の話を盗み聞きした挙句、
自分は大丈夫だのすぐ治るだのなんだの抜かすから、
奴が本当に触れられねェのか問い詰めてやった。
「…………………。」
だが、道場の裏で見た澪は
本当だったらしい。
澪は俺を怯えた目で見たまま、
辛そうに唇を噛んだ。
目は憔悴していて、冷や汗は滝のように出ている。
明らかに異常だ。
「……………ハァ。」
澪から体を離して、
新しい煙草に火を付ける。
俺が偶然道場で見かけなければ、
コイツはこのまま潜入捜査に行くつもり
だったのだろうか。
「…お茶でも飲んで、ちょっと落ち着け。」
「………、すみません。」
目を逸らせない様子の澪に、
俺のお茶を押し付けた。
澪は目を背けて、
バツが悪そうにお茶を飲む。
両手で持っているのに、
手が震えるせいで飲みにくそうだ。
「それが治るまでは、大人しくしてろ。」
「…………。」
「いいな?」
「………はい。」
澪は目を伏せてがっくりと肩を落とした。
潜入捜査は生半可な状態じゃあ行かせられない。
澪のためにも、この方がいいだろう。
「………………。」
澪は一気にお茶を飲み干し、立ち上がった。
「盗み聞きの件、申し訳ございませんでした。
では、失礼します。」
俺に一礼してさっさと
澪はその場から去っていく。
その背中は何時もよりも、小さく見えた。