第23章 初心編
「…ッ、…はぁ…。」
道場の裏に入り、
壁を背にして凭れた。
そんなに距離はないのに、
息が上がり、汗がだらだらと落ちてくる。
「……なんだよ……もう……。」
肩を抑えていた手を見ると、
手がガクガクと震えていた。
「…………ッ、」
震えを止めようと
もう片方の手で掴んでみるものの、
上手く力が入らない。
「…ったく…勘弁してよ…ッ…。」
そのまま座り込み、目を閉じると、
すぐにあのオレンジの髪が脳内を駆け巡る。
「……クソ………。」
ここにはいないはずのアイツは
確実に俺自身を蝕んでいた。
忘れよう、忘れようとするほどに
情景はハッキリと思い出される。
「…こんなんじゃ……ダメだ…。
このままじゃ、
柳生家にも、真選組にも…
顔向けできなくなる…。」
今はまだ誰にもバレてない…。
でも、これが続けば…
いずれ、バレてしまう…。
でも、もしそうなったら………
「俺……忍者失格だ……。」
男に触れられない忍者なんて、必要ない。
俺みたいな、変装型の忍者は特に。
ふと、鬼兵隊にいた時の河上万斉の言葉が頭を過る。
『その曇り…貴様自身の体を狂わせぬかもしれんな。
狂い、蝕み…いずれ、使い物にならなくなる。』
この手が使い物にならなくなる?
そんなはずはない。
俺はまだ、まだやれるはずだ。
「………さっさと…止まれって………!」
俺の焦りを嘲笑うかのように、
手の震えはしばらく止まらなかった。
「………アイツ、あんなとこで何して…。」