第23章 初心編
「…あれ、今日は包帯してないじゃねェか。」
「ええ。やっと取れました。」
朝、沖田隊長に会うと
開口一番に包帯の事を言われた。
包帯の意味を聞かれても適当に
はぐらかしていたのだけど、
それもやっと今日で終わる。
首輪や手錠の跡はかなり薄くなっており、
これだったら変装用のメイク道具で
なんとか隠せそうな程度まで落ち着いてきていた。
「へぇ、なら澪さんも戦線復帰ですか?」
近くにいた隊士もにやにやと笑って話しかけてくる。
「戦線復帰?」
そういえば、彼は密偵部隊だ。
最近密偵部隊はほぼフル出で外に出ている。
退がいないのは少し寂しい気もするが、
仕事ならば仕方がない。
「今、でっかいヤマ張ってるんですよ。
相手はおっさんなんで、
澪さんの色仕掛けがあれば
すぐ堕ちますよ。」
「……ははは、『色仕掛け』…ねぇ。」
そこで自分の女装を想像して、やめた。
今の俺はおっさんを目の前にして、
色仕掛け出来るのだろうか。
「なんでぃ。ちゃんは
出し惜しみするワケ?」
「いえ、まさか。
それが仕事というならば、
なんでもやらせて頂きます。」
「おー、流石クソ真面目野郎。
身も心も仕事にってか?感心感心。」
「クソは余計です。」
沖田隊長が俺の肩をポンポンと叩いて、
ひやりと体が強ばる。
「まぁ俺は留守番なんですけどね。
デカいヤマ、必ず盗んできてくださいよ。」
「いやいや、まだ決まったわけじゃないでしょ。
決めるのは副長と局長ですから。」
「何言ってるんですか。
2人とも澪さんの腕は買ってるんだし、
すぐ声かかりますよ。」
俺は派遣忍者だ。
雇い主からの仕事の依頼にNOはない。
俺自身の勝手な都合で、
依頼を断ることは出来なかった。