第22章 帰宅編
窓から入ってきた女は、殺し屋さっちゃんこと、
猿飛あやめだった。
「…別に私じゃなくても、
忍者なら、皆彼が嫌いよ。」
彼女は心底不機嫌のようで、
口をへの字口にさせている。
「忍者の中では、奴ぁ有名なのか?」
「何を言ってるの……。
有名なんてもんじゃないわ。」
俺がふとした疑問を聞いてみると、
猿飛はキッパリと言い放った。
「……業界で、彼の名前を知らない者はいないわ。
勿論、悪い意味で。」
「悪い意味って…アイツの何が悪い?
別に家柄が良いってだけじゃねぇのか。」
「…………。」
俺の言葉に猿飛は目を丸くする。
有り得ない、と言いたげだ。
「……本当に何も知らないのね。」
「………は?」
猿飛の言葉に、思わず腑抜けた声が出た。
何も知らない、だなんて。言われる筋合いはない。
何度も澪の調査をしているし、
俺なりに手は尽くしてきたはずだ。
「以前将軍家に仕えて暗殺業をしていたが、
一晩でいなくなった…ってのは知ってるぜ。」
「………そう。」
少しムカついて、知っている情報を言ったが、
猿飛は呆れたようにため息をついた。
「それなら、
神崎家がどうやって暗殺業をしていたか
知ってるかしら。」
俺の言葉を跳ね返すように言い、
猿飛は壁にもたれかかって窓の外を見る。
江戸の街頭は外を明るく照らし、
ターミナルタワーは俺達を見下ろしていた。
「神崎家は、伝統ある一族……。
暗殺業を中心に…いえ、暗殺業しかしない一族よ。」
「だから、人を殺すことに関しては
プロだったわ。」
「でもね……彼らは狂ってた。
あれは殺し屋でも暗殺業でもない。
…………ただの愉快犯よ。」