第21章 鬼兵隊編
「昔、ワシがまだ柳生家の当主をしておって…
九兵衛がまだ生まれてない頃だ。
………神崎家、という
家元があるという噂を
聞いたことがないかの。」
「…………神崎、家?」
俺の反対側にいる総悟が首を傾げた。
その苗字は澪のものなのだが、
全く、聞いたことがない。
「……知らねェな。」
「おじい様。僕も聞いたことありません。」
九兵衛、柳生四天王……皆が首を振る中、
敏木斎は俯いた。
「ワシも多くは知らんのじゃが……。
神崎家は伝統ある忍者一族で、
将軍家に仕えており、将軍が気に入らぬ者を
暗殺していたという噂じゃ。」
「…その一族出身が
澪だって事か。」
俺は手元の吸殻入れに煙草を入れる。
「ってことは、澪は
誰かを暗殺しに来たって
事ですかィ?」
「いや、そうではない。
第一、神崎家は今はもう無いからの。」
「………もう無い?
おじい様。無いって、どういう事なんだ?」
「むむぅ、無い…という
言葉は語弊があるかの。
…一族は急に姿を消したんじゃ。
たった一夜、日の出を迎えた瞬間。
夕方まで連絡が取れていた一族と
急に全てが途絶えてしまった。
………その原因は分からないまま、
二度と将軍家の前に現れることは無かった。」
敏木斎は目線を落としたまま、
話を続けた。
「………将軍家は一族に暗殺を依頼していた。
つまり、一族は皆、将軍家の内部事情を
全て知り尽くしている。
姿を消した一族に危険を感じた将軍家は
沢山の忍者に声をかけたんじゃ。
一族を殺した者には
多大な賞金を与える…とな。
じゃが、結局誰も見つける事が出来んかった。
それどころか、探しに行ったほとんどの忍者が
未だに帰ってきておらん。」
「………こうして…神崎家は
幻の一族と呼ばれるようになった。
その内に誰も探さなくなり、いつしか
忘れ去られていった………。」
敏木斎はため息混じりに話を終える。
4本目の煙草に口をつけた
俺の吐息だけが部屋に響いた。