第20章 春雨編 (注:R18 本番なし)
「隊長、いるなら言ってくださいよ。」
少年は、隊長、と呼ばれていた。
そしてそのおっさんによると、
やはりこの少年は……
「………神楽の兄貴?」
「………その呼ばれ方は感心しないね。
俺は神威。二度とソイツの名前は出すな。」
にこりと笑いつつも殺気を醸し出す少年
……神威に俺は口を紡いだ。
今のところ、ここで逆らったところで
特に利点はない。
とにかく、神楽の名前は禁句だ。
言ったらきっと、本当に殺されるだろう。
「………神威。」
「そう、それでいいヨ。
君は澪だよね?
あの女の子がそう言ってたし。」
「……そうだよ。」
「……ふぅん、なら、澪って呼ぶから。
素直でいいネ、君。」
「………………。」
反抗するチャンスは今じゃないだけだ。
いつか、こんなとこ脱獄してやる。
「…………フフ、なんで君がここにいるのか
知りたい?」
「……どうせ、奴隷でしょ。」
俺がそう言うと、
神威が顔を近づけてきた。
「…………正解だよ。」
しかし、その笑みはずっと絶やさぬままだ。
俺がはぁ、とため息をつくと、
阿伏兎が口を挟む。
「……言っとくが、今時
地球人の奴隷なんて売れない。
お前は隊長の憂さ晴らしになるだけだ。」
「…阿伏兎、流石!
よく分かってるね。」
おっさんの名は阿伏兎、というらしい。
全くもって、兎ではないけれど。
というか。
「………憂さ晴らし……か。」
コイツの戦い方は、
ただただ、空っぽだった。
結局俺と戦いたかった理由も、
何故若を狙うのかも、
何一つ、分からなかった。
なんとなく空虚感だけが
そこに漂っているような、そんな感じ。
神楽とは違う、
常に闇に包まれた空虚な残虐行為。
そこから繰り出されるのは常に笑顔だ。
その理由は一体なんだろうか。
目の前にいる少年は
今も尚、何をするか分からない。
「………そう………。」
俺は神威の笑顔に一言呟いて、頷いた。