第20章 春雨編 (注:R18 本番なし)
「………馬鹿者ッ!」
だが、若には俺のそんな想いは
伝わらなかったようで。
俺がとぼけた返事をすると、
若はキッと俺を睨んだ。
その眼には涙が溜まっている。
「馬鹿って何さ。
そんなの両方とも大事だ。選べないよ。」
「………ふざけるな!
両方とはなんだっ
僕達の事を卑下するつもりか!?
あの税金泥棒と巷で言われている奴等と
僕達が同等な者達だと言うのか!!」
若は気が立っているのか
俺に半分叫ぶように言い放った。
そこまで一通りが多くない道だとはいえ
夕暮れが若の顔をオレンジ色に照らす時間。
仕事帰りや買い物帰りの人達が
俺達を見てヒソヒソ話をしている。
そしてその中に、
俺をつけている『誰か』もいた。
これ以上、若と俺が一緒にいる所を見られたら
若まで巻き込んでしまうかもしれないのに。
「…………。」
こんな非日常な状況の中、
俺は不思議と冷静だった。
若にこう言われてしまう事を
分かっていたのかもしれない。
「………黙っていないで
なんとか言えばいいだろう!!」
若はグスグスと涙を零し始めた。
多分、若は俺に否定してほしいんだと思う。
自分がおかしな事を言ってる事くらい
若にも分かるはずなんだ。
でも、俺は、
「……先に帰ってくれ。」
泣いている若を突き放した。
「……たわけ!
……もう澪なんか大嫌いだ…!!」
若が涙も拭かずに走り去るのを見送ってから
俺は人気のない道へと歩みを進めた。
「………はは、酷い言われようだ。」